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2013.05.22

新旦過街にて、夜の新規開拓

長くなった陽が沈むと心地よい風が吹きぬける季節。
そんなこの時期は夜の新規開拓にもってこいの季節なのです。
なぜならこの時期は、普段は閉じられていることの多い居酒屋や小料理屋の引き戸も、外の空気を取り入れるために少しだけ開いていたりして、その隙間からさりげなくお店の中の様子をのぞくことが出来るからなのです。

そんなわけで久々の新規開拓に乗り出したものの、いつも飲んでいる紺屋町、堺町、鍛冶町あたりは結局知っているお店ばかりなので、この夜はいつもと少し違ったエリアへと足を運んでみました。
1新旦過街です。

”小倉の台所”として有名な旦過市場に沿うように、市場の裏路地に小さな飲み屋が密集しているエリアなのです。

「ようころ新旦過街」ではなく、
「ようこそ新旦過街」なのが、さっそく謎めいています。

15新旦過街の入り口付近には、この路地のマップが掲げられています。
点滅するイルミネーションが照らし出す、妙に手作りチックなマップといい、「砂の巨人」や「出会いのかけら」といったお店の店名といい、かなり昭和の香りが漂っています。

2路地の奥はこの通りディープな雰囲気で、ちょっとした迷路のように入り組んだり、分かれたりする小道が這いまわっています。

そんな新旦過街で、ずっと気になっていたお店があるのです。

3カクテル しろ」です。

看板にはなんとも言えないこだわりの書体。
そしてお城の絵。

ドアに仕込まれた小さなガラスを通して中を覗き込むと、カウンターとバックバーが見えるので、看板どおりのカクテル・バーとわかりました。
見るからに歴史のありそうなお店の前には植木が植えられ、おそらくはママさんもいることを予感させます。

ギッ・・・(と、扉を開く)

「いらっしゃいませ。」とママさん。

「えっと、どこでも(座って)いいですか?」と私。

「はじめて・・・でいらっしゃいますよね?」と、白髪のマスター。

「ハイ、いつもは紺屋町あたりで飲んでいます。」と私。

店内はカウンター席が8席ほどと、背後に控えめなボックス席。
内装にはけっしてお金は掛かっていないけれど、壁や天井にまで貼られた企業戦士の名刺が、このお店の歴史を感じさせてくれます。

私:「ずいぶん長くやっておられるみたいですね。」

ママ:「そうね、もう五十三年になるのよ。お酒、何にします?」

私:「ジン・トニックをお願いします。」

清潔な白い服に黒の紐タイのマスター。

ジンも、トニックウォーターも冷やしていない、そしてライムジュースを少し注ぐという大昔そのままのレシピで作っていただいたジン・トニックは、飲む者に不思議な癒しを提供してくれます。
そう言えば何年か前、”雪国”を考案した老マスターに会いに行ったら、

「昔はね、ライムなんてほとんど手に入らなかったんだよ。誰でも手に入る材料を工夫して作ったカクテルが、スタンダードになったのは嬉しいよ。」

とおっしゃっていたのを思い出しました。

初めての客にもあくまでやさしく、全てを包み込んでくれるようなご夫婦。
五十三年前に時間の止まった、魔法がかかったような店内。

この街に、この裏路地にいつまでも残っていて欲しい、「カクテル しろ」はそんなお店なのでした。

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