2020.11.20

阿佐ヶ谷:〆の一杯「コタンの笛」

Photo_20201119110301酒飲みにとって重要なものはいくつかありますが、そのひとつが”〆のラーメン”であることに異論は無いと思います。
船乗りには羅針盤が、聖職者には活版印刷機が、そして酒飲みには〆のラーメンが必要なのです。

東京に住むようになってからというものの、ラーメンには苦労しません。
特に昔ながらのシンプルな醤油ラーメンがいつでも味わえるのは、関東出身の私にとっては非常にありがたいことなのです。

「店も混んできたことだし、今夜はウエストのことを考えて、一品少ないこのタイミングで帰るか・・・。」などと店を出たものの、「やはりもう少し食べたいなぁ~」となることもしばしば。
特にこの時期は寒い夜道をトボトボと歩いていると、温かいラーメンが恋しくなるものです。

そんな心の隙間にドはまりなお店が、「コタンの笛」です。

このお店を発見したのは阿佐ヶ谷駅から南のほうへ歩きながら夜の新規開拓を行った後、自宅へ向かって青梅街道を歩いていたときでした。
ポツンと灯る赤いちょうちん。古ぼけたアルミサッシの向こうの店内には温かそうな明かり。

「アレッ?もうかなりウチの近所だし、休日はこのあたりをよく通るんだけど、ラーメン屋なんてあったっけ?」

そう思いつつ引き戸を開けてみたのでした。
店内には店主のおばさんが一人と、先客の地元老紳士風が一人だけ。
白い化粧板で出来たカウンターはかなり年季が入っており、天板部分の端の方ははがれてきたのか、小さな釘で打ちつけてあります。
壁には見たことも聞いたことも無い演歌歌手のポスターが数枚。
サッとメニューに目を走らせ、

私:エッと、ビンビールとね。あと、この”笛ラーメン”ってどんなものですか?
おばさん:笛ラーメンはね、餡がかかっていて細切りの豚肉が入っているの。
私:ボリュームがありそうですね。では今夜は少しお腹がふくれているので醤油ラーメンをお願いします。
私:あとお手洗い貸してもらえます?
おばさん:トイレはねその奥の・・・。
老紳士:こっちの奥、左側に電気のスイッチがあるから自分で点けて。
私:あー、これですね。わかりました。(点灯)

餡という単語に触発されてメニューを隅々まで見てみると、焼きそば、各種チャーハンなど、一般的な中華にも裾野が広がっているようです。
このお店を40年以上一人でやっているというおばさんは話し好きで、

いろいろあったわよ。昔はタクシーの運転手さんとか、深夜営業のほら、飲み屋のお兄さんなんかがお店を片付けたあと寄ってくれてたの。でもバブルの後は景気が悪くなって終電の後にタクシーなんか使わないでしょ。そのうえコロナでね、飲み屋さんも早く閉まっちゃうから。だから開店を夜10時から8時に早めたのよ。

話の内容のわりに明るく話しているので、こちらはウンウンと聞いていれば良いのでラクチンだ。

大型の中華なべでジョワーッとスープを熱した醤油ラーメンはアツアツでウマイ!
ツルツルした麺の太さも私好み。
スープまで飲み干して完食です。

私:あ~温まった。おいしかったです。また来ます。終わりは何時まで?
おばさん:閉店?朝まで、明るくなるころまでよ。

深夜だけの営業というスタイルに、子供二人(と、たしか言っていた)を立派に育てあげたおばさんの苦労を想像しつつも、元気に動き回る姿には昭和の母のたくましさもまた感じられる。
その姿をニコニコと見守る老紳士もなじんでいる。
何を頼んでもおいしい店を発見した予感を確信にすべく、次はぜひ”笛ラーメン”や”チャーハン”にもチャレンジしたいものです。


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